リオネルの話
・裏世界管理委員会設立者、元祖会長。
・管理人特質で聴覚が異常に発達している。
鋭すぎて生活に支障が出るので、普段は耳栓をしながら聞いている。(これでやっと並程度になる。)
・世界を生み出した【始祖】の神々をエリーアスに殺させ、
管理委員会を裏世界最上級の権力を持つ機関に作り上げた。
・フランス南部の田舎に暮らしていた。
・世界で名を知らぬ者は居ない大富豪の一人息子だった。
・彼の母親は「誰よりも美しい」と もてはやされた大女優であったが、舞台の公演中に劇場が放火され、面影が無い程全身を大火傷する重体となり、以来、【美しさ】に異常に執着する魔性の女に成り果ててしまった。
・彼の父親は世界的に名を馳せる企業家。仕事面では素晴らしかったが、家族に対しての愛情は皆無に等しい。妻が魔女になってしまったことにより、妻と息子の存在を隠すようになった。
・母親によく似てとても美しい容姿
[透き通る金の髪、アメジストの瞳、陶器のように白くしみの無い肌]
の彼は、【女性】として生かされることになる。
暗い部屋に幽閉され、外界との接点を完全に断たれた。
着る服は全て女性もの、装飾が多く動きづらいものばかり。
女性のように扱われ、女性のような振る舞いを強要され、女性になるように矯正される日々。
何一つ自分でやらせてもらえず、ギリギリの生命活動とフランス人形のように佇むことしか許されなかった。
・母親は自らが作り出した美しい美術品を愛でるように彼を愛した。母と子の関係は既に破綻しており、息子のことを一切人間として扱っていなかった。いつしか「完璧に均整のとれた生きる愛玩人形」という認識にあった。
情欲の捌け口にされることも常にあった。その度に母親に対する不信感と恐怖が増幅され、精神が破壊されていく。
・半ば諦めていても、心の奥底ではまだ希望を持っていた。女性の扱いを受ける度に真逆の想いが募っていく。元の性に戻る、という希望だ。
・男としての一面を少しでも見せると、母親は彼に対して酷い暴力を振るった。
かなり酷いときは、性交の際に男性器を切断されることもあった。
・なぜか窓に張り付いていた【エリーアス】と目が合う。(この時初対面。)彼は「お前を探していた」と言った。そのとき初めて母親の目を盗んで、屋敷の外に出ることが出来た。屋敷の外は入り組んで巧みに隠れた路地がたくさんあり、灯台下暗しと屋敷のすぐ近くだと見つかることはなかった。運が良いときに抜け出して、二人で話をしたりその辺りを散策するのが彼にとっての一つの生きる意味になっていた。
・素直に少年として、男性として振る舞えるエリーアスに、憧れと少しの嫉妬と恋愛感情を抱いた。彼にとっては、エリーアスは唯一で初めての他者との関りだからだ。
・彼はエリーアスに「男に戻してほしい」と頼んだ。エリーアスは「なら、その代わりに俺の願いを叶えてくれ」と言った。
彼の願いは、「二人で管理人を見つけていく」というものだった。
・既に管理人として目覚めているエリーアスは、裏世界に散らばっている管理人を集め、機関を作りたいと言った。3番街から外の世界に出たことが無いリオネルは、未だ管理人としては目覚めていなかったので、この時はエリーアスが言っている意味がよく分からなかった。目を閉じている彼からは表情が読みづらかったが、その裏に大きな野望が潜んでいるのは見えた。
・母親の虐待という名の矯正は年を重ねるごとに酷くなる一方だった。しかしそれと共に彼の体は人間からかけ離れていく。人間では無い別の存在、管理人のエリーアスと関係をもったことによる『徐々の目覚め』であった。受けた傷がすぐに治ったり、失くしたものが生えてきたり、目に触れた筈のない記憶や情景が思い浮かんだり。
焦りが募っていく。早く外に出なければ。早く真実の姿に戻らなければ。我らの仕事を始めなければと。
・頻繁に外に出ていた所為で母親の監視が解けることがなくなり、エリーアスに会う機会が減っていった。彼は自分と会ってないときは別の仕事をしている。きっと管理人を探している。と感じていた。
・暫くはエリーアスと会えないような気がしていた。暫く、というのは何年単位でのことだ。矯正によって最近の記憶は朧気だったが、「3番街はお前に任せる。俺は外に行く」と言っていたような気がする。
その役目を、なんとかして果たさなければと思っていた。
・奇跡が起きた。母親が階段から落ちて全治3ヶ月の怪我をした。彼女のことだからすぐに戻ってくるだろうが、2週間くらいは家に居ないことになる。
一人で立つのも奇跡的という程体は弱っていたが、(徐々の目覚めが無ければ生きているのも不思議。)長い時間をかけて外に出た。建物で絶妙に隠された、いつもエリーアスと集まる路地に向かった。
そこにはいつもの彼は無く、別の、見知らぬ少年が一人、蹲るように体を丸めて泣いていた。
・父の書斎から盗んだ煙草に火をつけ、咥える。エリーアスに教えてもらった、「男らしい」娯楽の一つだ。最初は苦手だったが、彼を思い出せるので今では好きになっていた。
足元ですすり泣く少年は【アート】と名乗った。部屋の開いたドアからたまに聞くことがある、リオネルの家のライバル企業の息子らしい。隠されている彼には全く関係がないので興味を持たなかった筈だが、なぜか覚えていた。
「大好きな兄が死んだ」 そう言ってまた泣き出した。交通事故で彼の兄が死んだらしい。兄弟が無い、そもそも他者との関りがほぼ無いリオネルにはよく分からなかったが、てっきり「大好きな兄が死んだ」から悲しんでるのだと思った。
だが微妙に違った。アートがここに来て泣いている理由はもう一つあり、
それは「家に完全に居場所が無くなった」ということだった。
家では自分は邪魔で、両親にも他の親族にも『無い者』として扱われている。そんな中、唯一人間として、家族として、接して愛してくれたのは実の兄だけだった。優秀で誰からも期待されていた兄は、全てにおいて自分を助けてくれた。しかしその兄はもう居ない。もう誰も助けてくれない。家を継ぐ権利だって、意地悪な従兄に奪われた。今まで殺されなかったのは、体裁が悪かったり小間使いとして都合が良かったりとかあるけど、一番の理由は兄が居てくれたからだ。
きっと自分は三人の悪魔に殺されるだろう。こんな孤独は、もう耐えられない。
……と、アートは早口でまくし立てた。
・つまり、唯一助けてくれてた兄が死んで本当に独りになってしまって怖くなって逃げだしてきた、ということか?まあ大体合ってるだろう。
大富豪なんてどこもみんな同じ感じなんだな、と煙草をふかしながら同情した。そして少しアートに親近感を覚えた。
本当に似ている。自分と、彼と。
少しの違和感がすぐに気づかせてくれた。アートは同じ種族……
【管理人】なんだ、と。
・管理人を探すにあたって何を当てにしていくかというと、エリーアスが言うには、「勘」だそうだ。根拠も何もないが、管理人という生き物自体、そういうふんわりとした、しかし確実なものらしい。
同種族を見つけると、何の証拠も無いが、”それ”だと分かるらしい。一度気づいてしまうと、初対面のはずなのに、アートと接した記憶がなだれ込んでくる。
彼は表に出さずとも、歓喜に震えていた。彼との、エリーアスとの約束を、自分の役目を果たすことが出来る。その達成感で今彼は幸せに満ちていた。
・見つけたはいいが、これからどうしたらよいのだろうか?自分でもよく分かっていない【管理人】のことを説明したって理解してくれるわけないし。
確保しておきたいが、家に連れ込むことなんて出来るはずがない。
こいつがずっとここに居るわけでもない。どうにかして接点を作らなければ。
確かエリーアスは言っていた。「共通点があるなら、そこから繋がりを作れば良い」と。それが他人と交流するための入り方だと。
利害が一致している、と言う。アートとリオネルのそのときの関係はそんな感じだった。
結果、アートはリオネルにとても懐いた。昔の自分を見ているようで複雑な気持ちになったが、曇りのない笑顔を見せてくれるようになったアートを面白いと思った。接していくと分かったが、どうやら彼は感情の起伏が激しい傾向にあるのと、嫌なことはすぐに忘れられるらしい。正直、羨ましいと思った。
年齢に反して幼すぎるというのが残念な所だが…
・エリーアスが帰ってきた。会うのは、一旦会わなくなってから5年振りだ。初めて知り合った時と同じように窓に張り付いていた。
「外の世界に連れて行ってやるよ」
エリーアスはそれだけ言って窓から彼を引っ張り出した。階にして5階、落ちたら確実に死ぬ高さだが、エリーアスは即座に彼を抱きかかえて近くの建物に乗り移った。地面に降りて靴を履かせると、エリーアスは彼の手を引いて若干強引に彼を連れ出した。3番街の外へ出る門へ。
・エリーアスに進捗を報告した。アートに会わせ、管理人かどうか確認した。どうやら当たっていたらしい。
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